有孔虫などの微化石を用いた研究
有孔虫の個体別同位体分析を用いた新たな環境指標の開発
生物源炭酸塩の安定同位体組成は「vital effect(生態活動や生息環境の物理化学的変化による,周辺水の組成との同位体非平衡)」の影響を受けることが良く知られている。vital effectは石灰化プロセス,細胞内での呼吸由来CO2の寄与,共生生物の活動,底生生物であれば微小生息環境,など多数の要因があり,その影響をキャンセルしない限り,生物源炭酸塩の安定同位体組成から生息当時の正確な海洋環境に知ることはできない。そのため,これまでの有孔虫を用いた環境解析では同位体値の「相対変動」を見積もることが主で,水温復元や炭素循環の収支モデルの「絶対変動」に対して提供できる基礎データの質に限界があった。もし生息環境の温度やDICを直接反映する種(vital effectが小さい絶対環境指標種)を認定することが出来れば,過去の海洋環境をより正確に知るための強力なツールになる。
表層堆積物試料から得られた底生有孔虫殻の安定同位体組成を個体ごとに定量し,d13Cとd18Oともに種内の同位体組成の個体分散の大きさとvital effectの大きさに強い正の相関があることを明らかにした。さらに,全ての底生有孔虫のd13C・d18O・殻重量を三次元プロットすると明確な収束点があり,この収束点が無機沈殿で形成される炭酸塩の同位体組成と一致することがわかった。この収束点に近い同位体組成を持つ有孔虫種は環境解析に有用な種と認定することができ,少量の個体でも当時の海洋底層環境を直接理解するための「絶対環境指標」として活用することができる。